1998年レジームシフトの植物プランクトンへの影響の把握 |
親潮水域で1990年以来継続している海洋観測データを解析した結果、1998年を境に春季の植物プランクトンのブルーミングの開始時期の早まりと植物プランクトン現存量の増加が見出された。この現象は夏季の表層水温の上昇、及び春季の表層塩分の低下とも対応し、1998年前後に新たな気候変動のレジームにシフトしたという仮説を海洋の基礎生産の変動から支持しているとみなされる。 |
担当者名 |
独立行政法人水産総合研究センター北海道区水産研究所 亜寒帯海洋環境部 生物環境研究室 |
連絡先 |
Tel.0154-91-9136 |
推進会議名 |
北海道ブロック |
専門 |
生物生産 |
研究対象 |
海洋変動 |
分類 |
研究 |
「研究戦略」別表該当項目 |
3(1)低次生物生産機構の解明 |
[背景・ねらい]
北太平洋では長期にわたる気候及び生物量の変動がレジームシフトと呼ばれる10年規模の周期で起こっていることが明らかになりつつある。当機関では1990年以来、親潮水域を中心とした定線Aライン(図1)での海洋観測を継続している。この観測で蓄積された海洋情報を用いて、1998年前後にみられた親潮水域の海洋環境の変化はレジームシフトによるものとする仮説の検証に植物プランクトンの変動から取り組んだ。
[成果の内容・特徴]
1990-1997年と1998-2003年の2つの時期に区分し、水温を指標として各時期における親潮水域のデータを抽出し解析を行った。月ごとのデータ数は100を超え、統計的に十分なデータ数を確保できた。
1)水温・塩分の変化
1998年以降、夏季の表層水温が有意に高くなった(図2)。1998-2003年の表層水温は1990-1997年の平均値よりも5℃も高かった。一方、表層の塩分は1月から6月にかけて、1998-2003年の平均値は1990-1997年と比べて低く(図3)、これは1970年代以降の塩分低下現象によるものと思われる。
2)植物プランクトン現存量の変化
1998-2003年の表層クロロフィルa濃度は、春季の植物プランクトンのブルーミング(大増殖現象)のみられる4−5月において1990-1997年よりも高かった(図4)。また、1990-1997年ではブルーミングの開始前であった3月においても、1998-2003年の平均値は高い値(約0.9mg/m3)を示し、1998年以降親潮水域での春季ブルーミングの発生時期の早期化と現存量の増加が起こった可能性が指摘された。
[成果の活用面・留意点]
1)レジームシフトに伴う基礎生産の変動に関する知見は、餌料プランクトンの質的・量的な変動等に関す る知見と合わせることにより、水産資源の変動予測手法の開発に貢献する。
2)親潮水域のレジームシフトを検証するためには、本解析結果に加えて他の海域及び観測データの解析結 果とを統合して判断することが必要である。
3)長期間にわたる海洋観測データの解析は、レジームシフトを含めた広域での環境変動の検出に有効な手 段であり、今後も質の高いモニタリングを継続する必要がある。
[その他]
研究課題名:親潮水域・混合域における低次生態系モニタリング
研究期間:平成14−16年度
予算区分:技会プロ研「地球温暖化」
研究担当者:葛西広海・小埜恒夫
発表論文等:葛西広海・小埜恒夫「親潮水域の低次生産環境の長期変動:Aラインデータベースからの解析」2004年度日本海洋学会秋季大会講演要旨集,p.194.
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[具体的データ] |
 定線の位置
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図1 観測定線(Aライン)の位置.
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 水温の季節変化
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図2 表層(10m以浅)水温の季節変動
実線が1990-1997年の平均、破線が1998-2003年の平均.
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 塩分の季節変化
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図3 表層(10m)塩分の季節変動
実線が1990-1997年の平均、破線が1998-2003年の平均.
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 クロロフィルの季節変化
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図4 海表面のクロロフィル<i>a</i>濃度の季節変動
実線が1990-1997年の平均、破線が1998-2003年の平均.
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