[背景・ねらい]
温暖化のような大規模スケール変動の影響を明らかにするにはそれぞれの生物種の特性と種間関係を把握することが必須であり,種組成の情報が不可欠であるが,これまでの動物プランクトン長期変動研究の殆どは単に生物量変動のみを扱っており,気候変動が生態系構造を変動させるメカニズムを明らかにするには,長年にわたり採集・蓄積され,現在も状態良く保存されている標本群を用いて種組成を解析する必要がある。その条件をみたす東北ブロック試験研究機関の管理する動物プランクトン標本群(オダテコレクション)の重要性が評価され,環境省地球環境研究総合推進費のプロジェクト課題(図1)としてプランクトン変動解析を行う。
[成果の内容・特徴]
日本周辺海域で1950年代より採集され東北区水産研究所で保管している動物プランクトン標本群を,その採集年月・時刻,採集点の0mおよび100m深水温、湿重量などのデータが記載された採集野帳と整合し磁気データセットとしてまとめ(図2),そのうちこれまで親潮域で採集された1960年より2002年までに親潮域で採集された1527本の種組成査定を行った。40年以上にわたる広域の詳細な海洋プランクトン種組成データセットは我が国初,世界的にも貴重なデータセットとなった。
このデータセットを元に様々な視点で変動パターンを解析した結果,主に1970年代後期と80年代末に変化が見られるパターンや約20年周期を持つパターンなどが見られた。70年代後期と80年代末を境に変化が起きていることが認められたものは,これまで気候のレジームシフトとして知られている時期に一致し,気候変動との関連についてさらに解析を進めている。一方,80年代に動物プランクトン食者のマイワシの生物量がきわめて卓越していた事実と合わせて考察すると,マイワシの捕食によるトップダウンコントロールを受けるなど種間関係に起因する変動も起こっていたことが推測される。
[成果の活用面・留意点]
気候の長期変動や温暖化が海洋生態系にもたらす影響が具体的に評価できる。国や自治体の行っている環境保全を目的とした海洋環境モニタリングデータの利用法や解析法に関する新たな提言を行う。
[その他]
研究課題名:動物プランクトン群集組成の長期変動データに基づく海洋生態系の気候変動応答過程の解明(環境省地球環境研究総合推進費)
研究期間:H15-H17
予算区分:他省庁プロ研
研究担当者:杉崎宏哉
発表論文等:本州東方海域の動物プランクトン生物量の長期変動-親潮域・混合域・黒潮続流域の相違-,月刊海洋、36(10), p.733-738
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