仙台湾における貧酸素水発生状況について,多発時期,高頻度発生海域等が明らかになった。貧酸素水発生要因について,主に沿岸域の海洋構造との関連から,1水温鉛直分布の季節変動に伴うもの,2暖流系水波及の影響,3成層期に多量の流入負荷があった場合,の3点が認められた。発生原因解明,対策検討等のため,更なる調査研究が必要である。 |
[背景・ねらい]
仙台湾では,漁場環境の特性等からノリ,マガキ等の養殖,カレイ類等の刺網,小型底曳網漁業,マアナゴ対象のせん漁業,アカガイ,ホッキガイ対象の貝桁網漁業が盛んである。S.63年8月中旬〜9月上旬にかけて,中南部海域(七ヶ浜町〜福島県境沖)の水深20〜30m付近の底層で,飽和度10%以下の貧酸素水が発生し,底魚類斃死,不漁等の異変が認められた。このため,仙台湾における貧酸素水状況の実態把握や発生要因の解明が課題となった。
[成果の内容・特徴]
1)H.元〜6年は夏季に一部海域で貧酸素水の発生がみられたが,漁業被害に結びつくような貧酸素水の発生は認められなかった。H.7〜14年の貧酸素水(6mg/l未満)発生状況は,月別には,明瞭な季節変化が認められ,9,10月に顕著であったが、その他6,7月に4mg/l未満の発生が認められることがあった(図1)。海域別には,仙台新港沖〜亘理町沖の岸側の海域で発生頻度が高い傾向にあった。2)貧酸素水発生要因について,1水温鉛直分布の季節変動に伴うもの,2暖流系水波及の影響で,高水温・高塩分の水塊が下層に流入し,滞留状態を示した場合(S.63年8月中旬〜9月上旬に発生した貧酸素水も,この要因によると考えられる。),3成層期に多量の流入負荷があった場合,の3点が考えられた。また,貧酸素水発生要因として,底質の状況,底層における低流速が関与していると考えられた。3)1の発生要因によるものは,9,10月に,仙台新港〜亘理町沖の岸側の海域で高頻度に発生する傾向にあり,2の場合は,発生事例は少ないが,一端発生した場合にはその影響が広範囲におよぶ傾向にあった。また3の事例は,名取川,阿武隈川流入域の岸側の海域で認められた。4)これまでの調査結果から考えられる「仙台湾における貧酸素水発生推定フロー図(図2)」を示した。今後,貧酸素水発生原因究明等のため,フロー図に示した1,2の各項目についての検証が必要と考えられる。
[成果の活用面・留意点]
1)漁場環境は、海生生物の生育基盤(バックグラウンド)であり、これらを良好に保全することが極めて重要と考えられる。仙台湾では、近年貧酸素水発生が恒常化する傾向にあり、このことからも引き続き漁場環境モニタリング調査を実施し、調査結果について情報提供していく必要がある。2)近年のアカガイ不漁等の1要因として、貧酸素水発生が懸念されており、このため貧酸素水発生にかかる原因究明や対策検討が急務となっている。これまで得られた調査結果から、発生原因について検討するとともに、今後原因究明に向けた更なる調査研究が必要である。
[その他]
研究課題名:沿岸浅海漁場環境特性究明調査(県単事業)
研究期間:平成16年度(平成13〜17年度)
研究担当者:岩井拓郎
発表論文等:宮城県水産研究報告、第4号、1〜12P.、2004.
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